MiFID Ⅱ―迫りくる金融規制の波

投稿日: 2017年9月12日

MiFID Ⅱ―迫りくる金融規制の波

2017年9月11

 

1.2018年1月、MiFID Ⅱが施行

欧州地域にて、来年1月にもMiFID Ⅱ(ミフィッド2)が施行される予定です。聞きなれない言葉ですが、金融業に従事される方であればこの言葉を聞いただけで頭痛がする方もいるかもしれません。今回は金融業界に押し寄せる新作映画の様なこの新たな横文字規制と、その余波を考えます。

 

2. MiFID Ⅱとは

 MiFID Ⅱとは、2007年に欧州地域で施行された「金融商品市場指令」の第二次(改正)版を指します。前身のMiFID(Markets in Financial Instruments Directive)は、投資家の保護や取引の透明化などを取り決めた欧州域内の規制で、いわば日本の金商法と同様の規制です。MiFID Ⅱが初めて公表されたのは2011年。アルゴリズムを用いた取引の発展など、金融市場のめまぐるしい変化を受け、初版よりわずか4年足らずで第二次規制案が持ち上がることとなりました。

本指令は投資家の観点からすれば、透明性が更に担保されるなど、その活動に資するものでありますが、こと金融業従事者にとっては、事務手続きが煩雑になるなどの負担が大きくなるばかりの様です。

特に業界で関心事となっているのが、運用判断に必要なリサーチ費用についてです。MiFID Ⅱ下では、投資会社による第三者のリサーチレポートの購入は原則禁止となります。(ただし、リサーチ費用を投資家に明示し、説明責任を果たせば購入が許される例外規定も含まれています。)

従来、運用を担当するいわゆるバイサイドは、企業価値判断にあたり、証券会社所属のアナリストなどが提供するレポートを用いるのが常でした。こうしたレポートの手数料については、慣行上1件単位での金額は明示されず、大元の売買執行契約の中に付随するサービスとして、包括的に含まれることが多々あります。こうした形態の取引は“ソフトダラー方式”と呼ばれ、取引透明性が不十分であるため、かねてより欧米では規制が進む領域でしたが、今回の指令により、更に厳格な規制が下される結果となりました。

レポートの購入が原則禁止されれば、当然ながら、セルサイドによるレポートの数は減っていくでしょう。また、バイサイドが自社で有用なリサーチチームを組織できれば、リサーチレポートへの需要はさらに減ります(人間など比ではない計算能力を持つ知能が出てきた場合は、言うに及ばずですが)。いずれにせよ、セルサイドアナリストたちの淘汰は避けられず、肩身を狭くしながら、他社との競争力を付けなければなりません。

その場合セルサイドが取る戦略は各社まちまちの様です。バイサイドに好まれるよう、大型で取引しやすい銘柄を重視する場合もあれば、反対にニッチな中小型株に特化し、存在感を高めることに集中するかもしれません。

 

3.IRへの影響は

こうした環境が、企業のIRに影響を及ぼすことはあるでしょうか?結論として、やはり影響は避けられないようです。大型株にばかり集中したり、割安な中小型株を血眼になって探しているセルサイドに対し、IR担当者は自社を積極的にアピールしなければなりません。

また、従来セルサイドがパイプ役を務めていた役割、個別取材やスモールミーティングの手配なども、IR担当者自らが行わなければならない可能性があり、必要な事務作業が増えていくことも予想されます。この点、セルサイド以外のIR支援機関を利用したり、IR専用のツールなどを使用し、煩雑な事務作業を軽減していく必要が考えられます。IRにとっても、変革の時が来ているのかもしれません。

 4.日本への適用の可能性は?

さて、ここまでおどろおどろしく書いてきたMiFID Ⅱですが、冒頭で述べた通り、適用範囲は欧州地域に限定されているため、日本市場へこの規制の影響がすぐに出るわけではありません。ただ、ここで胸をなでおろすわけにはいきません。この6月に東京証券取引所が行った調査でもわかるとおり、2016年度の日本市場における外国法人の株式保有率は30%を超えています*。もはや海外の投資家が3割の保有を占める本邦市場において、影響がないはずもありません。IR担当者が効果的なIRを行うためには、こうした規制を我がこととして捉えなければならないのです。実際、適用地域外の取引について本規制がどのような効力を持つのかについては、明確な基準が定まっておらず、議論の的となっています。証券会社にとっては死活問題となりうるこの新しい波。企業のIRにおいても、飲み込まれるのではなく、反対に自社を直接アピールするチャンスとして上手に乗りこなしたいものです。

 

 

SGIM研究員 甲斐 博樹

注)*東京証券取引所 「2016年度株式分布状況調査の調査結果について」を参照のこと

http://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/01.html