(パートII)デュポン、アクティビスト投資家。。。

投稿日: 2015年9月23日

(パートII)

だがそれは多くの場合、クルマンとペルツの間の意思の戦いの様相を呈している。ある時点でデュポンはペルツの代わりに、トライアンが擁立する取締役候補を1人迎え入れるという和解案を提示したが、トライアンはこの提案をすぐに却下した。

クルマンの長年の知己で、委任状争奪戦を近くで見てきた人物は「結局のところ、両陣営とも個人的な戦いとなったが、それは大きな間違いだった」と述べた。

結果はさておき、この戦いはデュポンに打撃を与えたようだ。2015年第1四半期に、2年以上ぶりにデュポンの四半期売り上げは大きく落ち込んだ。同社は業績の悪化は、主として世界経済の減速やドル高によって国際売上高が伸び悩んだことによると説明した。3月には、ペルツがデュポンに借り入れを増やすよう迫ることを懸念して、ムーディーズはデュポンの格付けを引き下げた。実際、ペルツはそうしたいと発言していた。

委任状争奪戦によって、デュポンは多額の負担を強いられた。アクティビスト投資家の攻撃にさらされている企業に救いの手を伸ばしている専門家がますます増えている。早い段階に、デュポンは投資銀行のゴールドマンサックスとエバーコア、法律事務所スキャデン・アープスを雇った。エバーコアの会長を務めるウォール街の大物、クリントン政権時には財務副長官を務めたロジャー・アルトマンも個人的にこの戦いに巻き込まれることになった。デュポンは長年社外広報を担当してきたケクストに加え、トライアンとの戦いで電話を利用した活動を行うよう、委任状勧誘代理人のイニスフリー、PR会社ジョエル・フランク・ウィルキンソン・ブリマー・キャッチャーを雇用した。

消息筋によると、アクティビスト投資家から企業を守るサービスを数年前に開始したカンバー・ビュー・パートナーズもデュポンにアドバイスを提供している。最新の株主総会招集通知の中で、デュポンはトライアンの攻撃から守るために1,500万米ドルかかったと報告している。しかし、一部の消息筋によると、このような戦いではその数倍の費用がかかる可能性がある。

クルマンは、ペルツとの争いは自身のキャリアを通じて最も困難なものだと述べている。先日トライアンが行ったデュポンに関するプレゼン資料には、「経営戦略」と見出しがついたスライドが含まれていた。

スライドには大きな疑問符が書かれていた。クルマンは過去数か月にわたってトライアンや他の投資家に何度も戦略を説明していたことを考えると、このスライドの内容は受け入れがたいものである。

クルマンは最近フォーチュン誌に次のように話した。「アクティビスト投資家は何でも主張できる。非常に苛立たしいことだ。上場企業のCEOとして私が何か発言した場合、それは真実でなければならない。さもなければ投獄されることになる。私はCEOに就任して以来、ずっとこの言葉を守っている。しかし、アクティビスト投資家も同様に厳格な監視を受けているとは思えない」。

1月中旬、デュポンの年次リーダーシップ会議で、クルマンは同社の経営幹部120人を前に、ここ何年かは前年度の総括を行ってきたが、今年はもっと踏み込んだ内容になると話し、90分間にわたって会社の将来ビジョンについて語った。

トライアンとの戦いの大部分は、デュポンはどうやって事業を拡大すべきかということであった。トライアンの提案は、会社を3つに分割するというものだった。原則として種子事業をプラスティック事業や資材事業、そして近くスピンオフを予定するデュポンの子会社ケマーズ社の化学事業から切り離すというものである。ペルツは最近になってこの分割計画をいくらか取り下げ、柔軟に対応する用意があると発言した。しかし、分割によって会社のコストが抑えられ、特定事業へ集中できるると述べた。クルマンはペルツは依然として会社の分割に固執していると捉えている。

クルマンは、分割は間違っていると強く感じていた。そしてトライアンと名指しこそしなかったが、1月のスピーチにおいて、ペルツに対する自らの戦略を強く訴えかけた。クルマンは世界人口の増加は大きな機会をもたらしており、種子事業はその一つである。これはより持続的な食料供給を可能にすると述べた。

しかしデュポンの真の成長は、同社の数多くの事業が交わるところで生み出されるイノベーションの中にあり、より安全で健康な世界を生み出す。クルマン曰く、これこそ、デュポンの存在意義である。この世界問題に取り組んでいる大企業はごく少数であり、デュポンのように科学分野にまでコミットしている企業はほぼ皆無である。より良い未来を作り出せるという点で、デュポンは独自の存在といえる。クルマンは最後に「そのために私は今ここに存在する」といい、「あなた方は何のためにここに存在するのか?」と問いかけて締めくくった。

クルマンはスピーチした理由を次のように説明した。「社員たちに登るべき丘を示さなければならない。」しかし、クルマンは何が迫っているのか気づいており、デュポンのストーリーを口にするようにエグゼクティブに働きかけようと考えたのである。

クルマンによると、デュポンがペルツ率いるトライアン・パートナーズがCNBCからデュポンの株式を取得したことを初めて知ったのは2013年中頃であった。ペルツはあるヘッジファンド会議で行われたアンドリュー・ロス・ソーキンによるインタビューの中で、その件に関する質問を受けた。クルマンはペルツという人物を知っていたが、最初、その出資の意図が分からなかった。現在の株主のアクティビズムの波は当時、まだ勢いを増し始めた段階にあった。

以来、クルマン、デュポンの他のエグゼクティブや役員は、トライアンの代表者、第三者を含まない会議や電話会議を20回以上開いてきた。第1回会議は2013年7月下旬にミッドタウンにあるマンハッタンホテルの会議室で行われた。そこにペルツの姿はなかった。代わりに、トライアンのCIOでペルツの義理の息子でもあるエド・ガーデン、ネルソンの息子のマシュー・ペルツが、クルマンとデュポンのCFO、ニック・ファナンダキスを迎えた。その時初めてクルマンは会社の分割案を聞かされた。当初計画では、デュポンを4つに分割することを求めていた。会議は2時間にわたって開かれ、クルマンはほとんど聞き役に回った。「私は彼らの計画を理解しようとした。それにはまず、彼らの発言に耳を傾けなければならなかった」。

クルマンもスピンオフに100%反対していたわけではない。トライアンとの会合が行われる少し前の7月、クルマンは自身が4年間にわたって経営に携わっていた酸化チタン事業をはじめとする、化学事業の大半から撤退する計画を発表した。しかし、トライアンが提案する分割はデュポンにとって最善の策ではないと感じていた。にもかかわらず、クルマンは、トライアンの提案を取締役会に上げて、吟味するよう要請した。その後すぐに、デュポンはゴールドマンサックスとエバーコアを雇った。

9月、デュポンが新たに任命したゴールドマンサックスとエバーコアは、ガーデンおよびマシュー・ペルツとエバーコアのオフィスで対面した。同会議に出席した者によると、両行はガーデンとペルツに、提示されたコスト削減策は容認できないこと、グループとしては10月中旬に再び会合を開くことを決定したと伝えた。

トライアンの委任状の届出によると、ガーデンは10月初旬に何度もクルマンに面談を呼びかけた。デュポンのIRヘッドは、自身が話し合いを行う用意があること、あるいはファナンダキスがガーデンとの話し合いに応じると伝えた。10月14日、次回の担当銀行との会合の2日前に、ガーデンは再び電話をかけ、クルマンかデュポンのリードディレクターであるアレクサンダー・サンディ・カトラーとすぐにでも話をしたいと伝えた。翌日、クルマンとガーデンは話し合いに臨んだ。

その時点まで、ペルツの当初の投資の開示に加えて、同社のトライアンとのやりとりは、非公式に行われていた。ガーデンは、公開対立は回避したいと述べ、クルマンに (1)会社の分割、(2)ガーデンおよび相互に承認できる業界のエグゼクティブをもう一人役員に選任すること、(3)委任状争奪戦、という、3つの選択肢を示した。

トライアンは、株主総会招集通知に対して、クルマンは電話を切ることで答えたという。クルマンはそんな無礼なことはしておらず、折り返し電話すると言ったはずだという。いずれにせよ、トライアンが最後通達を出したことで、電話の後、クルマンは担当銀行とトライアンとの会合をキャンセルした。10日後、クルマンとファナンダキスはガーデンに再び電話をかけ、役員会はトライアンの会社の分割の提案には応じられないこと、ガーデンを取締役に選任しないことを決定したと伝えた。

約2週間後、デュポンはカルスターズから手紙を受け取った。内容は再びトライアンと会合を開き、落としどころを探すよう要請するものであった。クルマンはそれに応じた。今度はデュポンの顧問弁護士事務所、スキャデン・アープスのワシントンD.C.のオフィスで会合が開かれるが、道中、クルマンは楽観的であった。

トライアンが最初の出資をしてから6か月後に、デュポンは、化学部門の一部のスピンオフ計画を発表し、10億米ドルのコスト削減成果と、50億米ドル相当の自社株を買い戻す案を発表した。これらの動きはデュポンにとって良いことであり、トライアンもこのようなことを求めていると考えていたからだ。

ところが会場に到着するや、表情は青ざめた。会議で、トライアンが新しい白書を提出したのである。今回は、会社を3つに分割するというものであった。ガーデンによると、会議中ある時点でデュポンのコストがコントロールされていない状況にあるという証拠を持っていると発言した。ガーデンはカーライルがデュポンからコーティング事業を取得してからまだ1年たっていないが、すでに数百万米ドルのコスト削減に成功したと述べた。デュポンのリードディレクターで、ガーデンのこの報告を聞いたカトラーは驚いてクルマンの方を向き、これは本当かと尋ねた。

カトラーとクルマンはそのようなことは起きていないと述べ、特にカトラーはコーティング事業の業績について熟知していると述べた。クルマンも、売却されたのはつい最近であり、ガーデンが当時のコーティング事業の財務状況を把握しているのは疑わしいと述べた。会議の終わりに、ガーデンは最初と同じように最後通告を出した。会社を分割し、ガーデンともう一人のエグゼクティブを役員に迎えること、さもなければ委任状争奪戦が開始される。クルマンとカトラーは何も答えなかった。そして2014年初めに、委任状争奪戦の火ぶたが切って降ろされた。

しかしその後しばらくは何も起こらなかった。2014年にトライアンがガーデンと別の候補者を役員に指名する委任状申請期限は過ぎた。デュポンの役員会はトライアンの2回目の会社分割計画を精査し、これを却下した。一方、デュポンと投資家の関係は改善したように見えた。5月初旬、機関投資家向けスピーチにおいて、ガーデンはクルマンを称賛した。ガーデンはデュポンの経営指標の引き上げに取り組んできたことに触れ、「クルマンはデュポンにおいて基本的にアクティビストであった」と述べた。クルマンは惨事を免れたと考えた。

それから1か月ほど経過し、クルマンとファナンダキスはガーデンに電話をかけ、会社の業績について話した。ファナンダキスはアナリストに、グローバル経済の減速により、デュポンは当初の予測に比べて業績はそれほど良好でない可能性があると述べた。電話の中で、ガーデンは「会社の分割とガーデンを役員に選任しなければ、委任状争奪戦を開始することになる」と当初の計画を再び口にした。

2014年9月中旬に、トライアンはデュポンの分割案を公開した。白書の中で、トライアンはデュポンの利益の伸びは、ライバル企業の間でも最も小さいと主張した。そして超過コストは40億米ドルに達するという。白書では、デュポンを分割した場合、現時点の1株当たり65米ドルから、120米ドルに価値が上昇するとしている。このニュースを受けて、デュポンの株価は70ドル以上上昇した。

クルマンは翌日アジアへの旅行を予定していたが、キャンセルも検討して、数人の顧問に相談した。クルマンは予定通り出発すべきという点で、皆の意見が一致した。翌朝、クルマンはデュポン上層経営陣と電話会議を開き、トライアンの白書について話し合った。クルマンは空港で携帯電話を使って電話会議に臨み、デュポンのシニアエグゼクティブ約60人が出席した。エグゼクティブの多くはそれでも、トライアンがデュポンの分割を望んでいるという考えには及ばなかった。

クルマンは取締役会でその計画を検討したが、却下されたと説明した。デュポンを分割することはないと、皆を安心させた。クルマンは取締役会とともに実施しようとしている計画が、正しいものだと伝えた。それからアジアに向かう飛行機に搭乗した。

デュポンとトライアンの論争は会社を分割すべきかどうかを巡るものであったが、同時にこの大手化学メーカーはクルマンの指揮の下、正しい経営が行われているかどうかということでもあった。デュポンはクルマンの指導の下、1株当たり営業利益が1年で19%増加したという。しかしトライアンはここ最近の会社の利益は横ばいで推移していると主張した。

主張が食い違う一因はスタート地点にある。デュポンはクルマンがCEOに就任した2006年末から計算を始めた一方、トライアンはケマーズとともにデュポンからスピンオフされた化学事業にとって、サイクル的に高かった2011年末を開始時点としている。

またトライアンとデュポンが測定している対象が違うことも大きな要因である。トライアンはデュポンの総利益に目を向けなければならないと主張する。一方、デュポンは転換期にある会社にとってフェアではないと主張した。過去数年間にデュポンはコーティング部門を含めて、多くの収益性はあるが成長のにぶい市況産業に属する事業を売却した。低迷期にあったケマーズ社も業績の足を引っ張ったため、会社全体の利益に悪影響を与えたことは驚くには値しない。しかし、それは以前のデュポンだ。投資家が注目すべきなのは、デュポンが現在も関わっている事業、またはスピンオフ後に関与している事業からの利益である。それこそデュポンが注力していることなのである。そして、それらの利益は大幅に増加し、クルマンの転換戦略が機能していることを示している。

分割案の是非について、アナリストの意見は分かれている。ウェルズ・ファーゴのアナリスト、フランク・ミッチは、調査や生産シナジーで200億米ドルが失われたと指摘した。しかし、バンク・オブ・アメリカのアナリストは最近、ペルツはデュポンの取締役として参加すべきであり、これにより解体が一歩進められるとのISSの結論を歓迎した。もっとも、トライアンが主張するように、分割によって株価は120米ドルに達すると主張するアナリストは存在しないようだ。大半のアナリストは、デュポンが分割された場合の潜在的な価値は1株当たり90米ドル前後とみている。これは最近の75米ドルを大きく上回っている。しかし、クルマンが自身の戦略を実行するより、90米ドルを手にするために、会社を分割した方がよいのだろうか。