社外取締役が情報のギャップを埋める方法(後半)

投稿日: 2015年7月13日

コーポレートガバナンスについて最近行われた調査で、「なるほど」と思われる事実が確認された。取締役会に占める独立役員の割合が高くなると、その企業の透明性は高まるというものだ。ただ、透明性の高まりは、社外取締役の数が増えたことによるものか、それとも透明性の向上に取り組む企業がより多くの社外取締役を設置する傾向にあるのかは、明らかでない。

ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのクリストファー・アームストロング教授とウェイン・ゲイ教授は、マサチューセッツ工科大学スローンマネジメントスクールのジョン・E・コア教授とともに、Journal of Financial Economics誌に寄稿した論文「社外取締役は企業の透明性の向上のきっかけとなるのか」の中でこの問題を掘り下げた。 本インタビュー記事(Knowledge@Wharton)では、アームストロング教授とゲイ教授が調査結果を考察するとともに、コーポレートガバナンスや情報収集・伝達のあり方を改善するにあたり、企業に求められるものは何か、「万能な」解決というものが存在しない理由について解説する。

インタビュー編集版は以下のとおり。

お目付け役に常に情報を伝える:

ゲイ: 同調査では、コーポレートガバナンスの要としての、取締役会に注目した。企業の株主は取締役会を選任し、取締役会は経営陣が株主の要望に沿って行動するよう、戦略的決定や経営の監督を行う。

取締役会の構成員の多くは独立役員であり、経営に直接関わっていないため、経営陣のお目付け役や監視役を務めることになる。ところが厄介なことに、これらの社外取締役、独立役員は、会社で何が起きているのかについて十分な情報を得る必要があるが、通常、彼らは企業組織の上級幹部を務め、多忙な日々を過ごしている。そのため、企業への関与は年に4~6日程度である。そこで、経営陣を監督し助言を行う上で、必要な情報をいかに入手するかが重要となる。

本論文では、優れた決定を行う際に利用できる、有用かつ職務を果たす際に一定の確信が得られる情報を入手するために、企業、経営陣、取締役会はいかに行動すべきかに焦点を当てる。

重要な教訓:

アームストロング:今までに得た重要な教訓は、情報と監督者、意思決定者の間の二極間でのつながりが不可欠だということである。実際、それらは連携する必要がある。一定レベルの取締役を設置するには、一定水準の情報、環境、または一定の透明性が必要になる。

取締役会に目を向けると、社外取締役と社内取締役の間で大きな緊張またはトレードオフが見られる。社内役員は会社の関係者であり、日常業務に従事している。彼らは会社について十分な予備知識がある。そのため、独立役員のように、外部情報に依拠することはない。一方、独立役員の出社日数は通常、年に5~6日にすぎない。独立役員は意思決定を迅速に行い、適切な質問を行うための、情報を手にすることができる情報源を必要としている。

アームストロング:我々は、他の2人の共同執筆者とともに、調査報告書の作成に取り組んでいる。一人はFRB(連邦準備制度理事会)調査局の職員で、金融機関を担当している。そこで、我々は、とりわけ、金融機関やや銀行との関連の中で検証した。

「上場企業の意思決定において、社外取締役の意見が一層重視されるようになっている。そして、社外取締役が必要な情報を手にして初めて、その仕組みは機能する」 

–ウェイン・ゲイ

調査で分かった驚くべき事実

ゲイ:論文の中で確認された興味深い事実のひとつに、情報と、取締役会の構造の間の関係がある。

具体的には、企業の情報開示が不十分な場合や、企業が社外取締役に情報を伝えるのが困難な場合に、企業に取締役会における独立した社外取締役の比率を高めるよう強制しても、うまくいかない可能性がある。これは、こうした役員が優れた職務を遂行する上で必要な情報を入手できないおそれがあるためだ。

同時に、取締役会に独立役員を含めるよう強要する際、これらの役員はより適切な情報の確保に努めることが分かった。そして、取締役が企業に透明性を高めるよう強く求めるのは、この複雑かつダイナミックな情報構造による。しかし同時に、独立役員の割合が高すぎる場合、情報に関する問題が発生し、これらの取締役が必要な情報をすべて入手できないという事態に陥る可能性がある。

方法論

ゲイ: 2000年代初頭にある規制が通過した。その一部は、主要な株式市場に対する規制であった。つまり、取締役会の過半数は社外取締役としなければならないというものであった。

それ以前は、社内役員が過半数を占めるケースが多かった。そしてこの新しい規制により、取締役会の過半数を社外取締役にしなければならなくなった。これに伴い、企業は取締役会の構造を大幅に変更する必要に迫られ、大きな混乱が見られた。社外取締役の登用を強いられ、外的ショックを受けることになったのだ。

それでは企業はこれにどのように対処しているのか。企業は新任の独立役員にスムーズに情報を提供できているのか。規制導入前、取締役会が社内役員8人、独立2人で構成されていた場合、規制導入後には、社外取締役または独立役員7人、社内役員3人か4人で構成されるようになったのか。さらに、どうにかして社外取締役に迅速に情報を提供する必要が出てきている。

そこで、我々は「企業は財務報告の質を変えたのか、企業は異なる監査プロセスを採用しているのか、企業は業績予測やアナリスト予測という形で公開情報を開示するようになったのか、単なる社内情報にとどまらず、取締役がより優れた情報を入手できるように、企業は措置を講じているのか、を検証した。経営陣に優れた情報を提供するよう要請するだけでは、多くの場合、不十分であり、信頼できる情報源ではない可能性がある。

アームストロング:規制導入直後の結果は、独立役員の割合が低かったこれらの企業が、過半数を独立役員としなければならなくなったというものである。

これらの独立役員を迎えた後、どのような二次的な結果につながったのだろうか。以前から独立役員の確保に努めていた企業は、規制導入後に、組織された新しい取締役会の構造に対応するよう、情報環境をどのように変えたのだろうか。規制は最初に倒れたドミノのようなものである。現在は、その結果を待っているところだ。

調査によって解消された誤解

ゲイ:コーポレートガバナンスに関して一般に多く見られる誤解のひとつは、企業が利用できる一定のベストプラクティスというものが存在するという内容である。一つのベストプラクティスでコーポレートガバナンスを語れるという考えは誤りである。

一つのベストプラクティスでコーポレートガバナンスを語れるという考えは誤りである」

ウェイン・ゲイ

実際問題、たった一つのベストプラクティスで、コーポレートガバナンスの方法を説明することはできない。ある企業にとって最良の慣行も、別の企業にとってはそうでない場合がある。またかえって高額な費用がかかったという場合もある。そこで、我々は取締役会に焦点を定めた。単に、企業に社外取締役の割合を高めるように強いるだけでは必ずしも十分ではなく、これらの社外取締役が不透明な状況で意思決定を行う場合には、良い結果につながらない。これらの社外取締役が十分に情報を手にしなければ、優れた職務を遂行することはできない。

この考え方を取り入れることで、実質的にほぼすべての単一なガバナンス構造を課すことができるだろう。[さらに]人々は、多くの場合、取締役会会長はCEOではなく、社外取締役が務めるべきだ[と主張する]。CEOと取締役会会長の責務は、切り離さなければならないという。

また、CEOが取締役会会長を兼務することが良い時も悪い時もあるという、広範な研究が存在する。例えば、好ましくない取締役会、役員報酬、ストックオプション、株式持ち合い、ガバナンスの各構成要素、などがある。またベストプラクティスはたった一つとは限らないことを心にとどめておくことが肝要である。すべては会社が置かれた状況によるのである。まさに人々はそのように考える必要がある。

アームストロング:さらに進んで、そもそも、皆に同じ方向に向くように強要する前に、なぜ違いがあるのか考えてみよう。すでに社外取締役が取締役会の過半数を占める企業もあれば、そうでない企業もあるのはなぜか。それらは調査や開発を積極的に行わない企業である可能性がある。そして独自情報の多くは、社外取締役に正確に情報を伝達することが難しい場合もある。あるいは、独自の理由によってそうした情報を社外取締役に提供することを企業が望まないということも考えられる。そのような企業の場合には、社内役員が取締役会の過半数を占めるというのも頷ける。

ひとつの実践的な意味合い

アームストロング:公には論じられていないが、ひとつの実践的な話としては、社外取締役はどこで情報を入手するのかということがある。我々はコーポレートファイナンスに関連する情報入手に似核的一般的な手段を講じる。例えば、アナリストの予想を読んだり、企業が出す業績予想を注視する。業績予測は、予測の頻度やその正確性が窺えることから情報源となりうる。また株式市場の取引高が情報の裏付けとなる。監査済み財務報告からは、会計評価基準を知ることができる。つまり、これらの情報は、取締役、とりわけ社外取締役が決定を行う際に利用する情報源を構成している。

ゲイ: 企業の観点から見ると、ガバナンス体制の見直し、取締役会構成の見直し、あるいは新たな取締役の迎え入れを検討する際には、これらの情報発信に付随する問題も考慮しなければならない。

このことについて一考する必要がある。会社に関わる時間が限られている社外取締役が正しい決定を行うことができると、どうやって確信することができるだろうか。経営陣の最大の関心事は、取締役会に十分な情報を提供することである。さもなければ、企業を正しい方向に導くことなく、議決権を行使したり、経営陣に影響力を及ぼすことになる。

そこで本調査では、企業がコーポ―レートガバナンス体制の見直しを行う際、考慮すべき事項を検証した。またこのことは、コーポレートガバナンス体制のあり方に大きな影響を与えてきた規制当局にとっても、学ぶべき点があるかもしれない。

規制当局は過去10年~15年間において、上場企業の取締役会の過半数は社外取締役で構成されなければならないこと、監査委員会は100%社外取締役で構成されなければならないこと、報酬委員会は100%社外取締役で構成されなければならないこと、任命委員会は100%社外取締役で構成されなければならないこと、といった決定を下してきた。

規制当局は過去10年~15年間の間に、これらの社外取締役に、以前にもまして多くの費用、リスク、時間を課すようになった。上場企業ではこれまで以上に意思決定が社外取締役の手に委ねられるようになった。これらの組織はいずれも、社外取締役が必要な情報を入手して初めて機能するようになるだろう。規制当局はガバナンス基準を課す際、この点も認識しなければならない。

透明性の影響:

アームストロング: 本論文で既知の事実として取り上げるもうひとつの規制状況に、過去15年間のバナンス開示に関する規制の変更が挙げられる。特に我々が念頭に置いているのは、過去15年間に、報酬に関する情報の開示がより良く行われるようになり、透明性も増したことである。

我々、研究者(そして、おそらく株主、アナリスト、規制当局も)は、例えばCEOや上級幹部の報酬パッケージなどに関して、より詳細な情報を得られるようになった。彼らがお目付け役を担う限りにおいて、情報は意思決定や監督を推進する可能性がある。

今日の権限を有している株主:

アームストロング:昨今、業界向けのプレスは、株主の議決権に大きな注意を向けている。具体例として、報酬決議が挙げられる。企業は3年ごとに、CEOの報酬パッケージについて株主の決議事項としなければならない。米国では、これは拘束力を持たない決議案である。しかし、株主が報酬パッケージについて意見を表明するひとつの手段でもある。これは、株主の権利を強化する動きとみなされ、兆候的でもある。ガバナンスの観点から見れば、株主により議決権を与えるものと見なされる。そして、我々の調査に照らすと、このことからある疑問が生じる。社外取締役と同様に、我々は一体どこから情報を入手すればよいのか。株式保有比率が小さい株主が多く存在する場合には、どこで情報を入手しているのか、これを追跡するインセンティブは小さくなる。

彼らはこの情報をどのように処理するのか。規制当局が株主の権限の強化を図ろうとする場合には、この点に留意しなければならない。

以前ほど情報環境は「固定」されていない:

ゲイ: 本論文がこの分野の学術誌に貢献しているひとつの理由は、企業が包み込まれている情報環境は、基本的に固定されているか、あるいは企業にとって外因的なものとなっている論じる先行論文に基づいていることである。そしてこれらの先行論文は、企業や取締役会は、取締役会と企業の間の透明性をほとんど変えることはできないと論じている。

これらの論文の主張は、透明性のそれほど高くない企業では、取締役会における社外取締役の割合を高めることはできず、透明性の高い企業では、その割合を高めることができるというものである。これらの研究は主に財務を扱っている。会計の観点から見ると、企業はどのようにして会計報告の決定を行うことができるのか、また企業の透明性が高くない場合には、どのようにすれば透明性を高めるよう会計プロセスを変えることができるのかを詳しく証した会計論文が多数存在する。

「経営陣が不正会計に走るケースが増えている…そのような重要な状況下では、正確な情報の入手が望まれるが、経営陣はそうした情報の提供には消極的である」

–ウェイン・ゲイ

取締役会が介入して何か変更を加えたり、経営陣が社外取締役の割合を高めるような変更を加えることは可能であるが、先述したとおり、その結果は良くも悪くもなる。

取締役会の独立性の観点から見ると、情報環境は適切なガバナンス構造の設定に影響を与える一方で、取締役会の独立性も同様に情報環境に影響を与える。そのため、互いに足並みを揃えて一体となる傾向にある。

調査における次の手順 – これらの教訓を銀行に適用する:

アームストロング:我々はガバナンス、とりわけ金融機関と銀行に関する調査論文に取り組んでおり、本論文や銀行や金融機関に関する他の論文から得た教訓のいくつかを適用しようとしている。

このことはいくつかの興味深い疑問を提起する。[なぜなら]金融機関は本質的に他の大半の組織にはない複雑さを備えているからである。会計の観点から見ると、その財務諸表は長くなる傾向にあり、脚注の数も非常に多く、情報力がさらに多くなる。そうした状況下では、情報の処理ニーズもおそらく高くなるだろう。このことはある疑問を生じさせている。本質的に複雑で、透明性が低い組織において、社外取締役はどのようにして、この情報を入手し処理しているのだろうか。

金融機関の場合には、規制当局も非常に需要な役割を果たしており、一定程度において、これらのガバナンスの仕組みの代わりを務めることも可能である。規制当局も経営陣の動向に目を向け、同様に情報を必要としている。このような問題にいかに対処するかを考えることも非常に重要となっている。

ゲイ: もう少し掘り下げてみよう。世界金融危機の発生時、懸念のひとつは、株主や取締役会が気づかない一定のリスクについて、経営陣がある事柄について責任を取らなければならないということであった。

そうした情報や、経営陣が負うべき責任と、取締役会が知っていること、株主が知っていることの間には透明性がないことに対する懸念があった。そこで、銀行の規制当局は一歩進んで、何ができるのかを把握しようと試みた。

我々はニューヨークの連邦準備制度理事会に勤務している人物を共同執筆者に迎え、本論文を共同発表した。そこで、我々は銀行に固有の、銀行が直面する具体的な問題に焦点を定め、取締役会と株主の間の透明性の高まりについて、さらには規制当局と経営陣の間の透明性についても、さらに掘り下げようと努めた。

有用な情報を入手できないリスク:

ゲイ:社外取締役は自身の個人的な評判や、自身が直面するリスクについても考えなければならない。社外取締役であることによる最大の代償は、自身の時間を割かなければならないことである。しかし、状況が悪化した場合、そのことで非難され、訴訟を起こされ、告訴されることもありうる。そして評判が損なわれる可能性がある。

「(普通株主は)一体どこで情報を入手するのだろうか。一体どうやって情報を処理するのだろうか。規制当局が株主の権限の拡大を推進するのであれば、これらの疑問を念頭に置かなければならないことがある」

–クリストファー・アームストロング

そのため、これらの社外取締役は良質な情報を入手することができる取締役会の一員になりたいとを希望するだろう。企業について入手できる公開情報のみ使用する場合、証券取引所への提出書類のみを基に、戦略的な決定を行うことは不可能だと思われる。より詳細で広範な情報が必要になる。

そのため、社外取締役を迎え入れた場合、彼らは状況をよく把握しなければならない。通常は経営陣による面談や既存の取締役会による面談を経て、取締役会の一員となる。そして、経営陣との定期的な会合に臨むことになる。経営陣は予算の提示や、アイディアの提出など、多くの情報を提供する。そして取締役に提供される情報の、非常に重要な情報源となるのである。

多くの場合、これは取締役が情報を入手する際の、最良の情報源だろう。しかし、経営陣は業績面等、懸念材料に直面した場合、会計不正や利益調整などの問題のある行為に手を染めるケースが少なくない。そのような重要な状況下では、正確な情報の入手が望まれるが、経営陣はそうした情報の提供には消極的である。

そして、経営陣が外部に知られると都合の悪い情報を入手する術が締め出されたとしたらどうなるのか。取締役会は「会社運営について適切な点検が行われていることを実証するためにどうしたらよいか」対策を練らなければならない。アナリスト、監査会社、規制当局、債権者、サプライヤー、従業員など、多くの人が会社の運営や業績状況に目を向けている。さらには機関投資家、ヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、会社に投資している多くの株主の存在がある。

つまり、これらの個人や組織によって会社の運営や業績状況が精査されているのである。取締役は従業員など、他の人々が会社を精査し、不都合な事態をあぶり出し、自身は時間や情報不足、あるいは単純に業務履行が不可能である事柄を解決して欲しいと考えている。

よって、これは非常に複雑な情報環境であるといえる。だが忘れてはならないことは、取締役として、お目付け役としての職務をまっとうしようとするのであれば、最大の関心事は、経営陣が情報提供に消極的であった場合も、確実に情報を入手することである。

アームストロング: 議論の余地はあるだろうが、取締役の最も[重要な]職務のひとつは、CEOの雇用と解雇である。そして、正しい決断を下すのに必要な情報を入手する上で、経営陣はあてにならない、という一つの証左となっている。