アニュアルレポートに関するヒント

投稿日: 2014年12月22日

優れたアニュアルレポートとは

〈執筆者〉リチャード・ケッチェン  2011年10月19日

投資家に、優れたアニュアルレポートとは何かと尋ねるのは、美味しいピザとはどのようなものかと聞くのに似ている。生地が薄くてパリパリの、トマトソースとチーズだけのピザと答える人もいれば、生地が厚く買い物かごがいっぱいになるぐらいの材料をふんだんに使った、バラエティに富んだトッピングが乗っているピザと答える人もいるだろう。

アニュアルレポートの隠し味とは何か。美味しいピザのように、結局はシンプルなものが一番良いというところに落ち着く。レオナルド・ダ・ビンチも『シンプルさは究極の洗練である』と、言っている。ダ・ビンチがアニュアルレポートを見て何と言うかは分からないが、今日、アニュアルレポートをシンプルに作成するのは非常に難しい。

さらなる情報開示や、サスティナビリティ報告書の添付が求められ、アニュアルレポートはますます分厚く、複雑になってきている。そのため残念なことに、多くのアニュアルレポートは質の低い情報、関連性のない内容や、定型文であふれ、主要なメッセージが目立たなくなっているのだ。

その一方で、明確で歯切れの良いメッセージは、強いリーダーシップを感じさせる。アニュアルレポートは、ステークホルダーとの関わりや対話を改善する機会でもある。優れたアニュアルレポートを作成する、4つのポイントを見てみよう。

戦略に的を絞ること

アニュアルレポートの構成は何通りもある。その一案として、戦略をフロントページに記述しそのうえで説明してみると、他のページに何を載せるべきかはっきりする。

財務に関する、あるいは財務とは無関係の企業目標や事業指標、そして戦略的優先事項など、会社の戦略上重要な要素を要約することから始める。最初から最後まで、明確なストーリーと一貫したメッセージを伝えるまとまった報告書となり、読み手が理解しやすいセクション構成になるのだ。

不要なものは切り捨てる

規制は一つの大きな目安になる。必要な情報であれば、アニュアルレポートに取り入れればよい。しかし、すなわちそれが自らの管理を離れるということではない。

情報整理には通常2つの方法がある。財務情報や開示情報などで、重要でない部分や繰り返しの表現があると、読み手の関連情報として判断や、内容理解の低下につながるものだ。またうっとうしく感じられる。企業方針、手続きなど何年も内容が変わらない情報は、読み手にとってほとんど価値がない。

アニュアルレポートを作成する際、掲載したい内容がまるでレストランのバイキングのように次から次へと出てくることがある。すべてを盛り込むのではなく、内容の価値を注意深く吟味することが常に必要となるのだ。絶対に必要な情報でなければ、掲載は見送ること、掲載が不可欠な情報は、他のセクションに同じものがないかを確認し、ウェブで確認できるものはその旨に読者に伝えて、掲載の重複を避けよう。

目標とすべきは、重要なメッセージを目立たなくする、過度で無意味な詳細を避け、会社の業績を意味ある形で伝えていくことだ。無駄な表現が少ないほど、強いインパクトを与えられる。

うまくまとめる方法

典型的なビジネスライティングモデルは、序文、本文、そして結論の3つのパートに分かれるが、この手法はアニュアルレポートには向かない。ほとんどの人は、最初の部分しか読まないからだ。つまり、重要なメッセージを後のほうに置くと、他に埋もれて見逃されてしまう。

冒頭以降も読み進めてもらうには、読者に内容が重要であることを確信させなければならない。結論と序文を組み合わせるのもうまいアプローチだ。あるいは、いくつかの最重要点から始めるのもよい。結論をトップに述べる。そして興味深く有益な内容を導入部分に置けば、読者をストーリーの中に引き込むことができるだろう。

同様に、表や図、目を引く字体やその他のグラフィック要素を活用すると、一目でストーリーを伝えることが可能になる。

文章は分かりやすく

ステークホルダーが、社内で使われている業界用語や専門用語に精通しているとは限らない。略語についても同じことが言える。明確に説明されていたとしても、繰り返し使用すると読み手の素早い理解を妨げてしまう。

一方、分かりやすい言葉を選べば、関連情報や主要なメッセージをすぐに理解することができるし、読者が意味を考えあぐねる際の、わずかながらの躊躇も減らせる。

個人的には、ピザの好みと同様、アニュアルレポートをシンプルに作成することに大賛成だ。よく見落とされがちだが、シンプルさは情報の内容を明瞭かつ有益なものにする、強力な戦略なのだ。過度に単純化するのではなく、メッセージをはっきり伝えるために、構成、短い言い回し、分かりやすい言葉を用い、簡潔に伝えることを目標にする。それこそが、厚みの如何にかかわらず優れたアニュアルレポートを作成する方法だと、私は思う。

簡潔なアニュアルレポートを作成する3つのヒント

〈執筆者〉リチャード・ケッチェン 2011年6月16日

今日のより高度化した事業環境では、物事の複雑化は避けられない。しかし企業報告の複雑化は、膨大な開示情報量が原因となっている。ではその解決法とは何か。それは、情報の賢明な取捨選択である。

これは容易なことに思われるかもしれない。しかし、企業報告制度は単に財務や運営に関する数字にとどまらない。企業報告、特にアニュアルレポートは、その目的や価値が人によって異なるという点が問題だといえよう。

米国ではその意義は健在?

例えば2009年には、フォーチュン100社のうち81社が少なくとも証券取引委員会に提出されるForm 10-K よりも興味を引くような、(アニュアルレポートや、表紙だけのような体裁だったとしても)自社に関する報告書を発行した。この状況を見てある米国の市場調査会社の重役は、アニュアルレポートの意義は健在であると発表したが、果たしてそうだろうか。最近のカナダと英国の調査や報告書では、アニュアルレポートや企業報告の価値や将来について、全く逆の見解を示している。

カナダの投資家は微妙な意見

(トロント証券取引所を傘下に収める)TMXグループの子会社で、トロントに本社を置くエクイコムグループが、カナダのIR担当役員やプロの投資家を対象に行った調査では、アニュアルレポートの価値を大いに疑問視する声が聞かれた。

IRツールの価値は何かという質問に対して、アニュアルレポートが最も価値のあるコミュニケーションツールだと回答したのは、IR担当役員ではわずか7%、プロの投資家では8% だった。アニュアルレポートは最も必要のないツールだとした意見が多く、プロの投資家の16%、IR担当役員の14%という結果を得た。

両者とも、投資家向けプレゼンテーションやプレスリリースを最も高く評価したのだが、それはなぜだろうか?それらのツールのほうが、投資家のニーズにより合致し、タイムリーに発表されるからである。それではカナダにおいては、アニュアルレポートの意義はもはや健在でないのだろうか。いや、そうではない。改善の最中なのだ。

英国の投資家は興味喪失に

英国では、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)、トゥモローズ・カンパニー(Tomorrow’s Company)、勅許管理会計士会(CIMAが、アニュアルレポートを含めた、企業報告制度のリスクについて警告している。それによると企業報告制度は、誰も監督・指導せずに情報というピースを組み込んでいく、ジグソーパズルのようなものだという。レポート作成者は、同じ目的を持っているわけではなく、むしろ全く異なる考え方や課題を持っていて、その上、作成側は資料の目的に応じて報告形態を見直したり組み替えたりするより、更に多くの開示情報をねじ込むことに終始しているように見えるというのだ。

ある研究員は、「アニュアルレポートが長すぎるうえに、法人や投資家が『知っておくべき』と考える情報よりも、『コンプライアンス』の徹底に終始し、投資家は興味を失っている印象を受ける」と述べている。

無駄を省いて簡潔に伝える

アニュアルレポートの意義は健在なのか、アニュアルレポートはほとんど価値がないのか、あるいは着飾った原始人のようなのか、情報時代の需要を満たすことができないのか。結局はどの意見に耳を傾けるかで判断が分かれる。

投資家が雪崩のように押し寄せる情報に埋もれてしまわないために、何ができるか考えてみると、定型文例の説明に多くのスペースを割いているセクション、特にガバナンスやリスクマネジメントのセクションを削除することになる。

1.外野の声をシャットアウト

投資家がアニュアルレポートを読まない理由の一つとして、法的用語、会計用語、専門用語の多用が挙げられる。その結果、投資家が本当に知りたい情報に行き着くのに、あまりにも長い時間がかかっているのが現状だ。情報にすぐにアクセスできるかどうかの問題は、印刷資料であれ、デジタル資料であれ状況は同じで、プロの投資家でない限り報告書は厄介な代物だろう。

財務諸表の注記、経営陣による業績の計画、そして分析のページについては、分かりやすい言葉を心がけて、専門用語や冗長な表現を取り除こう。コーポレート・ガバナンス委員会等に、ガバナンスに関する静的情報の削除に前向きかどうか確認するとよい。もし、削除が難しければ、新しい情報や前年度からの変更を際立たせる方法を探ることもできる。

2.微量のものは、気にしない

アレルギー体質の消費者のために、「…が含まれている場合があります」という注意書きは、今やどの食品の包装にも見られるが、投資リスクの開示においてすべての読者を対象に文章を構成する必要はない。むしろ、自社に特有の主要なリスクやその対応策を要約することに焦点を置こう。リスクマネジメントのより詳しい情報は、自社のウェブサイトを活用する方法もある。ここで重要ではないリスクについて論じるのは、避けるべきだ。無用の情報の掲載は、報告書全体的の質を落としてしまうのだから。

3.いつの間にか加えられる情報を減らす

アニュアルレポートは、細かい規則や基準が入り組み、主要なメッセージや重要な情報を目立たなくしている。報告要件を、会計士や弁護士、その他関係者の意見と組み合わせれば、結果は一目瞭然だ。いつの間にか加えられる情報の存在。気が付けば変わっていたという内容は、情報を減らすよりも加えられることが多いため、簡素化を心がける場合は殆ど例外なく、常に締切りへのプレッシャーが伴う。

また、アクションを早めに起こせば、長いセクションについてメリットを話し合い、妥協点を見出しながら、知らないうちに付け加えられた情報を削除できる。時には妥協しなければならない局面もあろう。それでもまだ、かなりの複雑さを解消することが可能だ。

シンプルかつすっきりした印象のレポートの作成を目指して、報告の焦点をコンプライアンスからエンドユーザーに移すには、それなりの決意が必要となる。それでも自社のアニュアルレポートや企業報告を進化させたいのであれば、レオナルド・ダ・ビンチのように考えることを提案しよう。彼の言葉を借りれば、「シンプルさは究極の洗練である」。それを達成できれば、読者は名画『モナ・リザ』のような微笑みを返してくれるかも知れない。