コーポレート・アクセス規制と、その対策

投稿日: 2014年11月4日

1. 英国での規制が強化

以前のコラムで海外、特に英・米国におけるソフトダラーの禁止と、それによる日本企業への影響についてのコラムを掲載しましたが、その後も海外における金融取引に付随する行為への規制は、ますます厳しくなって来ているようです。英国金融業界において金融行為を監視・規制する機関であるFCA(Financial Conduct Authority)は、今年の6月2日を効力発生日として、英国でのコーポレート・アクセス(1-on-1ミーティングの紹介やロードショウのサポートなどにより、企業と投資家間の橋渡しを行う行為)による報酬の支払いを禁止しました。禁止の背景には投資家の資産運用における利益相反などが生じるのを防ぐためと考えられていますが、こうした規制により、企業への悪影響が懸念されます。

2. 英国における影響

今回のコーポレート・アクセスの禁止について、英国のあるIRサポート会社*¹よりその影響に関するレポートが発行されています*²。レポートでは、この規制によって最も大打撃を受けるのは、中・小規模の企業だとしています。セルサイドのブローカー達は、資金に余力があり、コーポレート・アクセス以外の取引業務においてもより高い報酬を支払うことのできる大企業と、その取引量と回転率の速さのためにより多くの引受料を見込める、いわゆるヘッジファンドの様な短期的に多くの取引を行う投資家を取引対象として優先するようになるためです。同時に、投資家もまた仲介者がいなくなる分、自分たちで投資のニーズに合う企業を調査する手間やコストが増え、新規企業の発掘に手が回りにくくなります。その結果、中小の上場企業は長期的に自社を見てもらえる投資家候補を見つけにくくなるというリスクを背負わなくてはならなくなります。レポートではあくまでIR活動の結果がプラスにもマイナスにもなり得るとしたうえで、その対策としてIR活動の予算を増やし、積極的なIR活動を行っていくしか活路はないとしています。

3. 日本への影響

日本においては、コーポレート・アクセス、つまり証券会社による仲介業務が半ば常識化しているため、こうした議論は活発ではありませんでした。とはいえ、影響がないわけではありません。英国で規制されたということは、グローバルネットワークで活動する欧州・米国の投資家にもFCAの規制が波及してくるということです。現在の日本株式市場の大半は海外投資家によって構成されています。ということは、今回の規制の影響を受ける投資家が多いということもあるのです。多忙の合間を縫って日本株に注目している投資家たちは、実力はあるけれども海外では知名度の低い割安株を見つけ出す機会は更に減っていき、結局は海外でも名の知れた、あるいは成長ストーリーなど抜きにしても指標上でその価値が分かる企業にばかり注目するはずです。その結果、本来資金を必要としているはずの中小企業が投資家の目にすらかからないという事態は十分に考えられます。中堅・中小型企業にとっては、従来のままのIR戦略をとっているだけでは効果的なIRは見込めなくなっているのです。

4. 海外投資家へ遡及していくための方策

では、中堅・中小企業が海外投資家の注目を集めるためには何が必要でしょうか。上記のレポートで主張されているように、IR活動の予算を増やしたり、今以上の積極的なIR活動を行うことは十分に効果的です。ただ、人的資源や知名度のない日本の中堅・中小企業にとっては、IR活動にかける予算と人材を割くというのはなかなか困難です。また、単にIR活動を増やすだけでは効果的どころか、無駄を生みかねない場合もあります。予算的にも、人員的にも余裕のない中堅・中小企業では、投資家とのミーティングやロードショウにあたり、取締役クラスや代表取締役本人が訪問する場合も多々あります。そうした場合、訪問した投資家がその企業への投資目的というよりはむしろ興味本位や業界調査が目的だった場合、そうした活動は時間的にも費用的にも無駄になるのです。

こうした例や、中堅・中小企業の現状を考慮すると、IR情報のITインフラを整備するのも効果的ではないでしょうか。インフラの整備であれば、実際に投資家を訪問するよりもコストは比較的抑えられるはずです。また、海外投資家の立場になって考えてみると、不得手な日本市場の中でターゲットとなる企業を調べるには、何らかのITツールを用いた方が、効率的なはずです。

自社のHPは勿論のこと、IR情報サイトへの情報提供や、適時開示資料の英訳等も有効でしょう。スマートフォンの普及した現在であれば、自社のIR情報を提供するアプリケーションの作成も有効ではないでしょうか。企業の概要が知られるだけでなく、仮にその企業の株を保有した場合には、そうしたインフラを用いて継続したウォッチが可能になるはずです。いずれにせよ、他社がまだ始めていない点でアドバンテージを持つことは、中堅・中小企業にとっては十分な訴求力を持つはずです。

SGIM 研究員 甲斐博樹

注)

*¹RD:IR HP  http://www.rdir.com/about-us/management-team

*²「Corporate access: impact of new FCA regulation on quoted companies」

http://www.rdir.com/mediafiles/RDIR%20corporate%20access%20white%20paper%20May%202014.pdf#search=’corporate+access+white+paper