海外投資家による直接コンタクトの増加とソフトダラー問題

投稿日: 2014年7月31日

海外投資家による企業に対する直接コンタクトの増加

現在行われている経済・金融政策、いわゆる「アベノミクス」により、海外投資家の日本企業に対する注目が増しているのは既に周知の事実だと思います。その影響により、海外の投資家から企業への直接取材等のエンゲージメント(関りあい)依頼が増えている企業も多く存在しています。証券会社等の第三者を介さないこういった依頼形式は、これまでの日本では比較的少ないケースでしたが、現在それが増加傾向にある背景には、海外、特に英・米国における「ソフトダラー」に関する事情があると考えられます。

ソフトダラーとは

ソフトダラーとは、証券会社が運用会社に対し、有価証券の売買執行に加え、調査レポートなどのサービスを提供し、その一部を売買委託手数料の中に含める慣行のことを指します。証券会社は手数料の獲得や上昇を目的とし、ソフトダラーで提供するサービスの質の向上を目指します。その結果投資家にとっては、手数料を支払う一方で、質の高いサービス(レポート)を享受することが出来ます。証券会社及び投資家双方にとって有益なため、長らくそうした慣行が行われてきました。

ソフトダラーの規制

そうしたメリットがある一方で、ソフトダラーを行う際のコストは運用会社経由で間接的に資産を預ける顧客が支払う形式となるため、運用会社と顧客との間での利益相反が生じ得る問題が長らく指摘されてきました。ソフトダラーが慣例として行われていた英・米国においても、リーマンショック以前より規制の強化に向けた議論が活発に行われてきました。それに対応して海外の運用会社は、ソフトダラーに当たるサービス内容の明確化に努めたり、サービス内容の開示義務に追われたりといったことがありました。海外投資家による直接取材等が増加しているのは、彼らがこうしたソフトダラーの問題性や規制に敏感になっていることの表れであると考えられます。

日本におけるソフトダラー取引

海外がそうしてソフトダラーに対して活発な議論が行われている一方で、日本では海外ほど議論は活発ではなく、公的な年金運用を除いては明確な法規制などもありません。というのも、日本におけるアナリストというのは、その大半が証券会社所属の人間であり、もとよりそうした慣行が一般的になりすぎている傾向があるためです。そのため、調査レポートの提供等はもちろん、企業への直接的な取材に対しても証券会社が仲介を行うという例が極めて一般的なものとなっています。

積極的な投資家へのアプローチを

このような背景により、ソフトダラーに対して過敏になっている海外投資家たちは、必然的に自ら企業へアプローチをかけつつあります。しかし、日本株を専門にウォッチしている海外投資家でもない限り、日本企業をくまなくチェックするのは厳しいでしょう。従って、企業側も投資家からのアプローチをただ待つのではなく、投資家へ主体的かつ積極的なアプローチを行う必要があるのです。日本市場への情報が不足しがちな海外投資家に向けて他社に先んじて自社の企業価値を説明することが出来れば、大きなアピールとなります。現在の日本においてソフトダラー取引はさほど問題視はされてはいませんが、今後ますます増えてくるであろう海外投資家たちの影響を受け、いずれは英・米国のような活発な議論がなされるようになるでしょう。そうした将来に向けて、現時点から国内外の投資家へ向けた積極的なアピールが必要になってくるのはないでしょうか。

SGIM 事務局 研究員 甲斐博樹